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世界の分断化と日本の食料安全保障に関する研究

執筆者 本間 正義
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2025年3月
No. 2024-05
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内容紹介

近年の国際政治経済は混迷の中にある。新型コロナによる人流・物流の制限は各国経済のグローバル化にブレーキをかけ、ロシア・ウクライナ戦争や中東紛争の激化は地政学的リスクを高めている。さらには、トランプ米国大統領が仕掛ける関税戦争は、国際貿易を縮小させ、世界の経済成長に暗い影を落とす。

このように世界は分断化の傾向を示す中、海外に 6 割以上依存する日本の食料の安全保障に関心が高まっている。実際、食料・農業・農村基本法が改正され、食料安全保障は基本政策の根幹の一つに据えられた。それを受けて、新たに食糧供給困難事態対策法が制定された。

本研究では、まず、世界の分断化を海外資本の自国回帰傾向や貿易介入頻度の増大などで確認し、農産物貿易を取り巻く環境を議論する。その上で、食料安全保障の概念を共通のものにするため、国家安全保障や人間の安全保障等の安全保障の議論が国際政治学や国際関係論でどのように展開されてきたかを整理する。そこで登場する、リアリズム派、リベラリズム派、コスモポリタニズム派、ネオ・リベラリズム派、ポスト・モダン派のそれぞれの概念が、食料安全保障についてはどのように対応するのかを考察した。

本研究のコアとなるのは、2024 年に改正された食料・農業・農村基本法における食料安全保障の位置づけと、改正基本法とほぼ同時に成立した、食料供給困難事態対策法の内容の検討である。

改正基本法では、食料安全保障を新たに定義し、不測時において、国民が最低限度必要とする食料を確保するために、食料の増産、流通の制限その他必要な措置を講ずる、とした。これを受けて成立したのが食料供給困難事態対策法である。この対策法では、食料の供給状況を、平時、食料供給困難兆候の発生、食料供給困難事態の発生に分類し、さらに供給困難事態を主要食料の供給が 2 割程度減少した場合と、一人当たり供給が 1,850Kcal/日以下に低下した場合に分けて、それぞれの対策を法制化した。

果たして、この対策法は改正基本法が求める不測時の食料確保に有効となるのであろうか。想定される最悪の事態は確かに不測の事態であり、有事である。しかし、対策では生産者や業者に在庫がある場合はその適切な利用を促すのに効果的ではあるが、絶対的不足が生じた場合、増産や適切な流通を促すには問題が残る。

本研究では、食料供給困難事態対策法の有効性について吟味し、さらに、日本の食料安全保障をいかに確保すべきかについて議論する。