執筆者 | 八田 達夫 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2025年2月 |
No. | 2024-06 |
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市町村は、生活保護の支給や社会保険料の徴収・給付を行うなど、国の所得再分配行政の最前線にある。
ところが、日本の貧困対策には抜本的な見直しが必要だと認識され、様々な改革が提案されてきた。本稿は、その背景を吟味し、効果的な改革を明らかにする。
まず、可処分所得(すなわち手取り所得)で計測した「相対的貧困率」と呼ばれる指標では、日本は、OECD 加盟先進国の中で 3 番目に不平等な国である。日本より不平等な国は、アメリカと、パレスチナ難民が多く住むイスラエルのみである。
日本のこの高貧困率の原因は、市場所得(社会保障給付を加えたり、税や社会保険料を差し引いたりする前の所得)の不平等にあるのではない。原因は、低所得者が直面している税負担や社会保障負担の高さと給付の低さにある。
本稿では、そのことを示した上で、課税最低限未満の収入の人を含めた低所得者全体の手取りを集中的に引き上げる政策の本命は、「所得補給制度の導入」と、基礎年金などの「社会保険の税方式化」とであることを指摘する。手取り額の引き上げのために提案されてきた様々な「控除の引き上げ案」は、中高所得者の所得税を大きく減税してしまうから、低所得者の手取りを上げの目的のためには、効率が悪い。
現在日本では、失業率が低下しているにもかかわらず、消費が伸びていないが、その一つの理由は、消費性向が高い低所得者の可処分所得が伸びていないことにある。したがって、低所得者の可処分所得を引き上げる政策は、消費を増やし経済を活性化させ、その結果、低所得者以外の可処分所得も引き上げる。貧困率の引き下げは、それ自体のメリットに加えて、経済活性化の観点からも重要である。
本稿の第一部では、低所得者に対する再分配政策としての社会保障改革を論じる。次に第二部では、非正規雇用・主婦など、個人として低所得の人々に働くインセンティブを与えると言われる各種の所得税制改革案を評価し、低所得者の可処分所得引き上げのためにより有効な改革を提案する。