執筆者 | 髙木 信二 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2025年3月 |
No. | 2024-12 |
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第1章要旨
本論文は、金本位制下における日本銀行の金融政策を計量的に分析する。我が国の金本位制に関しては、膨大な文献が存在するが、計量分析は皆無だといってもよい。欧米では、金本位制下の「ゲームのルール」に関する実証研究が多くある。本論文は、この溝を埋めることを目的とする。「ゲームのルール」とは、戦間期に考案された事後的な概念で、以下のような発想である。「金本位制が世界規模で持続するためには、金を一方的に失う国があってはならない。したがって、金を失う国は緊縮的な金融政策をとり、金を得る国は緩和的な金融政策をとったはずである。」ところが、実証文献では、欧米の中央銀行は「ゲームのルール」を遵守しなかったという合意が形成されている。本論文では、日本銀行が、金の流出時には公定歩合を上げ、金の流出が収まると公定歩合を下げたことを示し、日本が学問的合意に反する例外であったと結論する。
第2章要旨
本論文は、東京大学所蔵の横浜正金銀行資料に基づき、日本占領下中国華北地域における「為替集中制」の仕組みを明らかにする。日中戦争期、日本は占領下中国を華北地域と華中地域に分離して統治した。華北地域では、中国聯合準備銀行を設立し、早くから円ブロックに1 聯銀元=1 円の交換比率をもって編入させた。為替集中制とは、聯銀元が円に固定化された状況で、物価高騰が輸出に与えるマイナス効果を軽減するため、輸入権を輸出商社に与える制度であった。すなわち、高物価の華北地域から低物価の第 3 国に固定相場で輸出することによる損失を、第 3国から固定相場で輸入した物資を華北地域で売ることから得られる利益で相殺させたのである。輸入権は、第 3 者に売ることもできたので、輸入権を取引する流通市場が形成された。本論文では、輸入権の流通価格を分析することにより、本制度が、表面上は固定相場制であっても、実質的な変動相場制として機能したことを示す。