PUBLICATIONS & REPORTS

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「台湾と北九州市のスタートアップ・エコシステムの交流可能性」に関する調査研究

Author 岸本 千佳司
Affiliation Asian Growth Research Institute
Date of Publication 2024.3
No. 2023-08
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Contents Introduction

本報告書は、公益財団法人アジア成長研究所(AGI)の受託調査研究プロジェクト「台湾と北九州市のスタートアップ・エコシステムの交流可能性」に関する成果報告書(2023年度実施分)である。近年、国内外で起業奨励とスタートアップ育成の土台として「スタートアップ・エコシステム」の構築が重視されている。エコシステムの構成要素には、起業家・スタートアップおよびそれを取り巻く起業カルチャーやコミュニティーに加え、 これを育成・支援する各種アクターが含まれる。政府機関、大学・研究機関、既存企業(特に大企業)、ベンチャーキャピタル(VC)のような投資家・資金提供者、そしてインキュベータやアクセラレータのような育成機関である。

本調査研究では昨年度に引き続き、台湾のスタートアップ・エコシステムの構成アクターに関する事例研究を積み重ねることで台湾に対する理解を醸成し、北九州市との今後の交流可能性について検討するための土台となすことを課題としている。本報告書では、台湾における大企業とスタートアップとの連携(Corporate Startup Engagement:CSE)の実情を解明するために、台湾の大手電子機器受託製造企業であり、かつ CSE に最も積極的な大企業の1つである「緯創資通(Wistron Corporation)」(以下、緯創と記述)の事例研究を行う。緯創では2010年代半ば頃から既存のICT産業の他に未来10年を担う新事業を模索する動きが生じた。元々イノベーション重視の文化を有しており、かつては社内活動(社内起業家の奨励等)が中心であったが、近年はそれと並行してスタートアップとの連携により外部の新風を取り入れようとしている。スタートアップへの投資(CVC)は2010年から始まっていたが、近年は既存事業からかなり離れた分野にまで投資対象が拡大している。スタートアップとの協力に当たっては、それに先んじて会社自身の成長戦略を明確にする必要がある。そして、会社上層部の持続的な支持・コミットが不可欠である。スタートアップの育成・協力に直接かかわる事業単位では、寛容の文化を培い持続的で柔軟な取り組みを行う必要がある。この負担を軽くし、また幅広い支援を提供するために、2015年にはスタートアップ支援に特化した部門である「新創整合センター(IIC)」が設立された。加えて、 AppWorksやGarage+のような実績のあるアクセラレータと密接に連携することで、有望なチームを探索し易くしている。