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日本の貧困率と社会保障財源

Author HATTA Tatsuo
Date of Publication 2025. 6
No. 2025-11
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Contents Introduction

現在日本では、失業率が低下しているにもかかわらず、消費が伸びていない。その一つの理由は、低所得者の可処分所得(すなわち手取り所得)が伸びていないことにある。低所得者の消費性向は高いから、その可処分所得を引き上げる政策は、消費を増やし、経済を活性化させ、結果的に、低所得者以外の可処分所得も引き上げる。貧困率の引き下げは、経済活性化の観点から最重要課題である。

実は日本では、貧困率の引き下げの余地は大きい。可処分所得で計測した「相対的貧困率」と呼ばれる指標では、日本は、OECD加盟先進国の中で3番目に不平等な国である。日本より不平等な国は、アメリカと、パレスチナ難民が多く住むイスラエルのみである。

日本のこの高い貧困率の原因は、市場所得(社会保障給付を加えたり、税や社会保険料を差し引いたりする前の所得)の不平等にあるのではない。原因は、低所得者が直面している税負担や社会保障負担の高さと、給付の低さにある。

本稿では、そのことを示した上で、課税最低限未満の収入の人を含めた低所得者全体の手取りを集中的に引き上げる政策の本命は、「所得補給(給付付き税額控除)制度の導入」と、基礎年金などの「社会保険の税方式化」とであることを明らかにする。

一方、手取り額の引き上げのために様々な「控除の引き上げ案」が、提案されてきた。しかしこれらの案は、課税最低限未満の収入の人の手取りを全く増やさず、中高所得者の所得税を大きく減税してしまう。とくに、「控除の引き上げ案」は、低所得者の手取り引き上げの目的のためには、効率が悪い。その原因は、日本の貧困率の高さが、低所得者が直面している社会保険料が極めて高いことを無視していることにある。

本稿の第一部では、低所得者に対する再分配政策としての社会保障改革を論じる。次に第二部では、非正規雇用・主婦など、個人として低所得の人々に働くインセンティブを与えると言われる各種の所得税制改革案を評価し、低所得者の可処分所得を引き上げるためにより有効な改革を提案する。