執筆者 | 戴 二彪 |
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所 属 | アジア成長研究所 |
発行年月 | 2018年3月 |
No. | 2017-01 |
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近年の日本において,経済再生策の模索が続く中,観光産業の成長ポテンシャルが重視されつつある。特に,欧米先進国と比べかなり出遅れているインバウンド観光の成長は,大きく期待されている。日本政府の主導で,2006年12月に「観光立国推進基本法」が成立された。地域経済の活性化,雇用機会の創出,国際相互理解の増進等に資する「観光立国」戦略は,日本の21世紀の国づくりの柱として位置付けられている。
政府の観光立国戦略の本格的推進に伴い,各地方自治体もアジア客をはじめとする外国人観光客の誘致を地域振興策の柱の一つとして重視し,空港・海溝などの交通インフラの整備を積極的に推進している。ただし,地域間競争が顕在化している中,交通インフラ整備の目的や観光振興戦略の目標を効果的に達成するために,まず訪日外国人客の旅行行動の特徴と影響要因を解明しなければならない。
本報告書は,財団法人アジア成長研究所(AGI)の研究プロジェクト「訪日アジア客の交通手段選択行動に関する研究」(2017年度実施)の成果である。当プロジェクトは,効果的な地域観光促進戦略の策定に資するため,アジア客をはじめとする訪日外国人客の交通利用行動など観光行動に着目し,その特徴と影響要因を明らかにすることが目的である。本報告書は3章から構成される。第1章では,訪日外国人客の空港利用行動に着目し,日本の30空港の最近3年間(2014年,2015年,2016年)の国際輸送に関するパネルデータと固定効果モデルを用いて,外国人客の空港利用行動の特徴と影響要因を分析した。第2章では,九州佐賀空港の上海便利用者を対象にしたアンケート調査で得たサーベイデータをもとに,訪日中国人旅行者の旅行行動を考察した。第3章では,北九州港ひびきコンテナターミナル(CT)に寄港したクルーズ船クルーを対象にしたアンケート調査で得たサーベイデータをもとに,クルーズ船クルーの旅行行動の傾向を分析した。また,各章では,それぞれの考察・分析結果を踏まえその政策インプリケーションを示している。地元九州をはじめ,各地の観光振興戦略策定のご参考になれれば,幸いである。
当プロジェクトの実施にあたって,佐賀大学経済学部亀山嘉大教授には外部からの研究メンバーとしてご参加いただいた。また,日中両国の多くの研究者・実務者からもご助言をいただいた。ここに記して,感謝の意を表したい。