刊行物

PUBLICATIONS

パンデミックにも対応できるセーフティネットの構築

執筆者 八田 達夫
発行年月 2020年 6月
No. 2020-15
ダウンロード 787KB

内容紹介

2020 年の新型コロナウイルス感染症に対して、日本のセーフティネットの制度の限界が明らかになった。

例えば、今回の急激な経済失速に際して、会社都合による一時帰休(layoff)に対する失業保険の支給は、アメリカと違って、原則として許されなかった。

次に、休業手当の支給を容易にするために、雇用調整助成金制度の使い勝手を良くすべきだという主張がなされたが、保険料の仕組みを今のままにして、この制度の使い勝手を良くすれば、保険財政は崩壊しうる。

しかも、日本では、高い解雇手当を契約で結ぶインセンティブを企業に与える制度が整備されていない。

さらに、失業保険の給付期間が終わると生活保護受給者は急増すると予想されるが、急増への対応は大きな不安を抱えている。ケースワーカーには相当な知識と経験が必要で、一朝一夕に増やすことはできないからだ。

本稿では、今回のパンデミックが露わにした現行のセーフティネット制度の弱点を解消し、「給付を迅速に支給できるセーフティネット」を構築する方策を検討する。具体的には、以下を提案する。

① モラルハザードを防ぎつつ、一時帰休者に失業保険を支給し、休業者に休業手当を支給する雇用保険改革。

② 解雇手当を契約に入れやすくするための労働者保護規制。

③ 低所得になった人へ迅速に現金を給付出来る所得税制改革。